2022年2月に読んだ本

上野泰也,『世界一わかりやすい金利の本』, かんき出版, 2018

為替・株式・債券・短期金融市場と、投資家たちの行動について具体的なイメージができるように。

翁邦雄,『人の心に働きかける経済政策』, 岩波書店, 2021

第5章(40ページくらい)の異次元緩和の説明が非常に分かりやすく、過不足ない感じ。QQEは貨幣数量説的な人々の期待(誤解?)に働きかける政策であり、かつそれに失敗した以上、長期戦は泥沼。その他の部分も、経済的合理人(エコン)とヒトの違いを前提に行動経済学をマクロ経済政策に組み込もうとする意欲作(ただ↓に比べて密度は薄いと感じた)。

翁邦雄,『日本銀行』, ちくま新書,  2013

中央銀行の役割や伝統的金融政策について丁寧に説明した後、非伝統的金融政策について非常に分かりやすく説明している。日銀・ECBが雇用の最大化を目標に掲げていないのは制度史的な背景による。↑の本では省かれている「マネタリーベースの増大が直接的にインフレを引き起こすわけではない」という話を詳しく説明していて、読み応えがある。

早川英男,『金融政策の「誤解」』, 慶應大学出版会, 2016

一番良かった。リフレ派と黒田日銀のどこが問題か、非常に論理的に説明していて、議論もとても分かりやすい。非伝統的政策の本質も掴める。出口問題についても、一番ありそうなケースを詳しく論じてくれている。この著者の著作は今後も追いたい。

岩田一政・左三川郁子・日本経済研究センター, 『金融正常化へのジレンマ』, 日本経済新聞出版社社, 2018

説明が端折られたり、繰り返しが多かったりで読みにくいが、第6章の出口で発生する日銀の逆ざやの試算はかなり詳しく、充実している。第7章のシニョレッジについての議論も勉強になる。
一方、日銀の負債の話に終始していて、出口で生じる財政・国債管理政策への打撃(利払い費の高騰&国債の市中消化が可能かなどの問題)については(タイトルから期待したのと違って)ほぼ論じられてない。もちろん仕方ないとも思うが、金融政策と、国債管理政策を含む財政政策を一体的に論じる人がいないのは問題だと思う。

NHKスペシャル取材班,『老後破産-長寿という悪夢』, 新潮社, 2015 

年金政策は貧困対策。制度があっても使えなければ(使いにくければ)困ってる人の役に立たない。高齢者の心理にとっての、貯金を使い切らなければ生活保護にアクセスできない(とされている)ことの酷薄さ。医療介護自己負担の問題。

ブランコ・ミラノヴィチ, 村上彩訳,『不平等について』, みすず書房, 2012

不平等についてのフレーミングを完全に掛け替えさせる良書。グローバルな不平等のほぼ全て(世界を一つの国家と見たときのジニ係数の約80%)は、(国内における)出身階級ではなく、どの国に生まれたかという要因によって説明される(p.108)。また、世界の所得分布をPPPで取ると、米国の下位5%の所得も世界では上位32%に位置しているなど。

福祉国家内部におけるロールズ的な平等主義はやはり正当化できない。

伊藤公一郎,『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』, 光文社新書, 2017

Eraihito/Episode/Emotion Based Policy Makingにならないように・・。外的妥当性と自己選抜バイアスの問題は、アンケート調査中心の?日本の政策評価の妥当性・有効性を考える上ではとても重要だと思う。

デュフロ・グレナスター・クレーマー, 小林庸平監訳, 『政策評価のための因果関係の見つけ方』, 日本評論社, 2019

政策の「効果」を抽出することの難しさ。例えば純粋な効果と全体的な効果の違い(p.9)や、対照群の被験者への波及効果(p.53)、プログラムからの脱落率やコンプライアンス(プログラムの手続きの遵守率)などの算入の必要性、社会全体でプログラムを導入した場合の一般均衡効果(p.135)など。日本のEBPMの現状は↑のような厳密性の遥か手前にいるような気もするが、大体の考え方が分かったのでよかった。

松岡弘之, 『ハンセン病療養所と自治の歴史』, みすず書房, 2020

愛生園については(長島の歴史館のおかげで)多少知っていたが、邑久光明園の前身である大阪の外島保養院の自治の歴史は本書を読んで初めて知った。解像度が何倍にも高まったと思う。愛生園の元入所者田中文雄(鈴木重雄)の評伝も、大変勉強になった。光田健輔という人物を評価することの難しさを改めて感じる。全生園の記念館の展示も、もう少し充実しないものか。

広井良典, 『持続可能な医療』, ちくま書房, 2018

医療経済学や社会政策論から福祉思想や死生学の空洞化への警鐘まで主題が幅広く、著者らしい一冊。国民医療費に含まれないものへの注目(p.52)、経済発展と平均寿命の相関(p.77)が面白かった。

猪飼周平 編著, 『羅針盤としての政策史』, 勁草書房, 2019

改めて、政策史の視点は重要だと認識。後藤論文は著者の単著の内容をまとめたもの。正史としての医薬分業史を批判し、薬剤師の職能史を専門職アイデンティティの側面から捉え直そうとした赤木論文も卓抜。猪飼論文の日本の医療供給システムの整理(p.260)も、非常に巨視的で分かりやすかった。

笠木映里・嵩さやか・中野妙子・渡邊絹子, 『社会保障法』, 有斐閣, 2018

半年かけて通読。今後も辞書的に使うと思う。

飯嶋和一, 『雷電本紀』, 小学館文庫, 2005

身分制社会の中で時代と戦う人びとを描いた力作。とても良かった。